船場の仕事を6人の写真家が切り取る 「空間の解放展」を表参道のスパイラルで開催

デザイン誌「AXIS」2026年11月号増刊号「SEMBA NEW STATEMENT 空間の解放」の発刊を記念し、船場(以下、SEMBA)は10月2~ 4日、東京・表参道のスパイラルで写真展「空間の解放展」を開催した。同展では、本誌のメイン企画として掲載した、船場が手掛けた空間を6名の写真家(安藤瑠美さん、金本凜太朗さん、草野庸子さん、小林健太さん、小見山峻さん、濵本奏さん*五十音順)が独自の視点で再解釈した作品を展示。 初日の前夜にはレセプションパーティーを行い、写真家や被写体となった空間の関係者、メディア関係者など96人を迎え、船場の新たな挑戦を伝えた。
「空間の解放」とは、本質を問うこと

会場の表参道のスパイラル1階のギャラリーは、螺旋のスロープが美しい、スパイラルの最も象徴的な空間。SEMBAの小田切潤社長のあいさつに始まり、「AXIS」増刊号の発刊とその内容についてブランド戦略部の丸山朋子部長が説明した。

続いて、本企画に参加した写真家の小見山峻さんと小林健太さん、「AXIS」編集部の平木輝正さんを迎えてトークセッションを行った。「竣工写真とは違った表現で、トガったビジュアルブックにしたい」という船場からの依頼に応えて始まったこの企画。完成後に記録として撮られる「竣工写真」ではなく、写真家それぞれの視点で空間を読み解いてもらうというユニークなテーマが設けられた。
ドラマ性を生む光と影
ウルフギャング・ステーキハウス 高輪店を閉店後に撮り下ろした小見山さんの写真は、無人の空間でありながら、人の気配を感じさせるドラマチックな作品群。人物やポートレート、ファッションの撮影が多い小見山さんだが、今回、空間も人物を撮るような考え方でアプローチしたという。「ウルフギャングは日常ではなく、特別な日に訪れる舞台のような空間だと感じました」。

「お客さんが座るテーブルや照明など、その特別な空間を演出している要素を一つひとつ撮影したいと思いました。シャンデリアはすごく象徴的ですし、石材のディテールなども気になりました。今回は照明を追加して撮影していますが、光の当て方によってよりドラマチックな見せ方ができたらいいなと思って撮りました」。
空間の楽しみ方を解放する
複合エンターテインメント施設KAWAII MONSTER LAND -HARAJUKU-を被写体にした小林さんは、写真の色の情報をデジタル加工する作品制作が特徴。カラフルでKAWAII世界観をさらに拡張させた。「テクスチャーやツヤのある仕上げ、色彩。そういったものが全部しっかり設計されていたと思います。照明もすごく演出的でダイナミックで、光を撮ること自体が楽しかったですね」。

「自分の表現方法とすごく相性の良い場所だと思いましたが、空間のアイデンティティとぶつからないようには意識しました。撮影の日はすごく暑かったですが、空間に入った瞬間に空気が切り替わるような感覚がありました。そのストーリー性や空気感を作品の中でも伝えたいと思いました」。
「独自のスタイルや表現を持つ写真家を選びました」と「AXIS」の平木さん。フィルムで撮影する小見山さんとデジタル技術を駆使する小林さんという対照的なアプローチの二人の作品解説は、写真という表現自体の理解を深め、“空間の楽しみ方の解放”でもあった。「今後の船場の姿勢を象徴する企画になったのではないかと感じています!」と満足そうに語った。
空間がもつ歴史に歩み寄る
さて、ほかの4人の作品についても紹介したい。 草野庸子さんが向き合ったのは、東京ステーションカフェ ザ ノースドーム。1914年の東京駅竣工当時、誰かの到着を待ちわび、旅の余韻に浸った改札出口の「待合室」であり、“時を味わい、文化を愉しむ空間”として現代に引き継いだ空間だ。「普段は人物を撮ることが多いので、空間に対峙して撮るというのは、ただ建物の情報を伝えるための写真ではなくて、「どうすれば普段自分が撮っている写真らしく空間を切り取れるのか」という試みでした。そういうことは今まであまりやったことがなかったので、すごく面白く撮影させていただきました」とレセプションに来場した草野さん。

レセプションには、被写体となった空間の施主、SEMBAにとってのクライアントも多数来場した。「竣工写真とは異なる視点で空間を捉えている点が、とても新鮮でした」と東京ステーションカフェを運営するJR東日本クロスステーション フーズカンパニーの下津浦久史 営業開発部 開発グループ担当部長。「作品ごとにまったく異なる切り口があり、特に国鉄時代を思わせる一枚からは、その場の空間というよりも時代の空気感が伝わってきました。普段私たちが目にするのは、空間の魅力を分かりやすく伝えるために撮影された竣工写真ですが、この展示ではそうした枠を超えた表現に出合えました。SEMBAさんが手掛けた空間でありながら、既存の壁に目を向けている作品もあり、良い意味で驚かされました」。写真家の視点で切り取られることによって、その空間の価値を改めて実感する機会となったようだ。
偶発性が生む新鮮な景色
金本凜太朗さんは、サントリー天然水 北アルプス信濃の森工場を撮影。青いトンネルのカットは、「空間の解放展」を象徴する1枚。レセプションに来場した金本さんは「空間の下にある白いボケは、現場にある手すりにカメラをくっつけて撮ったことで、奥の光がその手すりに反射し、偶然生まれた光でした」と金本さん。「そういった、その現場でしか起こらない現象のようなものを取り入れたいと考えていました。空間の特徴を伝えつつ、偶発的な要素も取り入れることを、それぞれの空間ごとに考えながら撮りました」と語った。

同施設のデザイン・設計に携わった船場 EAST事業本部 の立野弘貴さんは、「自分の作ったポイントがうまく活かされているものもあれば、逆に思っていた視点と違って驚くものもあり、プロの仕事だと感じました」と感嘆。「青のトンネルは、手前と向こうで日常・非日常を切り替える場所としています。その意図を汲んでくれていると感じました。銀鏡ベンチの写真はまさに、森の中に水の塊を作れなかったけど、ああいう風になってくれたらいいなというイメージでした」。会場では金本さんと大いに盛り上がっていた。
安藤瑠美さんには、中央復建コンサルタンツ大阪本社オフィスを切り取ってもらった。普段から都市をテーマにレタッチを駆使した作品を制作している安藤さんは、特定の施設と向き合いながら撮影する機会はあまりなく、新鮮に感じたという。「撮影を通して、素材使いやディテール、人の営みが積み重なることで生まれる空間の豊かさを感じました。すでに完成された空間だったので、その空気感や心地よさを構図や細部を通して素直に表現したいと思いました」と事前にコメントをくれた。

写し撮られた15年前の“想い”
開業から15年を経たテラスモール湘南にレンズを向けたのは、濵本奏さん。「学生のころ毎日通っていたモールで、現在もよく買い物をする場所なので、撮影日は、親しんだここをどのように撮影しよう?と考えていました」という事前コメントを寄せた。「実際に館内を歩いてみて最も印象に残ったのは、その空間がもつ寛容さでした。館内に散りばめられた波のような曲線のデザインに誘われるようにして、館内を巡りました。訪れた日はよく晴れていて、天窓から館内に射す太陽光の場所が、刻々と変化するのが印象的でした。それらの光や、曲線、風に揺れる葉を意識的に撮影しました」。

テラスモール湘南の開発をリードした住友商事の古川睦・商業施設事業ユニット 箱崎プロジェクト室長 シニアエキスパートは、写し撮られた15年の時を経て育った空間と、そこで自由に過ごす人々の姿にとても感慨深そう。「SEMBAさんとは開発当初から『湘南らしさとは何か』を話し合い、画一的ではない自由な生き方を受け止める空間を目指しました。単なる建物ではなく、一つの丘のような空間というか、中と外が曖昧につながっていて、人が自由に過ごせる場所です。15年を経て、写真家さん視点で、そうした我々の意図やコンセプトが自由に切り取ってもらえて、当時の議論の価値を改めて感じます。商業施設は作って終わりではなく、人に使われながら育つもの。今も自由に過ごせる場所として使われていることが伝わってきて、本当にうれしいです」。
作り手も驚く“意図”の汲み取り



自然に人が集いたくなるような、長く愛されるような空間づくりは、SEMBAの特徴の1つ。そうした空間を写真家が再解釈するというのは、SEMBA社員にとっても新鮮な体験となった。ウルフギャング・ステーキハウス 高輪店のデザイン・設計を担当した船場 EAST事業本部 の窪山知裕さんは、自らのデザインと写真家の解釈の合致にとてもうれしそう。「撮っていただいた写真から、すごく“人の気配”を感じました。僕らがやっていることは、全てシーンの設計なんです。いろいろなシーンを積み重ねていって、その結果として平面図になっています。『これは象徴的だな』『シーンを切り取ってもらった写真だな』と想像が膨らみました」。
3日間の会期中には、写真好きな人や建築関係者など、1400人以上が来場。この企画を通じて見えてきたのは、空間は完成した瞬間に閉じるのではなく、使う人や見る人によって何度でも解釈され続ける存在だということ。6人の写真家たちは、それぞれの感性で空間に新たな光を当てた。そして、その作品を見た設計者やクライアント自身もまた、自らが関わった空間を新しい視点で発見していた。「空間の解放展」は、空間の可能性を解放するだけでなく、その価値を共有し、広げていく試みでもあった。

PHOTOS : SHIN YOSHIDA, TEXT : CHIHARU ODASHIMA(SEMBA)