第4回目の“SEMBA Connect !”は、元パタゴニアの日本支社長で、現在は一般社団法人SEEDS OF LIFEの代表であり、社会起業家のJOHN MOORE(ジョン・ムーア)氏の登場です。同氏は2021年5月に開催された、教育総合展【東京】 船場ブースでのセミナーにご登壇いただきました。SEEDS OF LIFEをなぜ立ちあげたのか?サスティナブル社会実現のために自然環境から我々が学ぶこととは?自身の活動、考えを語りました。
アイルランド出身。祖母のもと幼少の頃からオーガニックの農業に触れる。英国シェフィールド大学にて、教育と都市設計を専攻。教師を経て、電通への入社をきっかけに来日。各国の農業を視察し、フランスに「ピレネー・シード・バンク」を創設。その後パタゴニア日本支社長に就任。 現在は、一般社団法人 SEEDS OF LIFE代表理事として、種子の保護・育成活動に従事。ローカルでのサスティナブルなフードシステムと新経済システムを目指すLOCAL ECO-NOMYを推進。ローカルシードライブラリー(種図書館)の設立支援やオーガニック教育プログラム、アーバンファーミング、オーガニックガーデンのデザイン、SEED to Products(種から作るオーガニック商品)のプロデュースなど、様々なプロジェクトを展開している。また、新たなエデュケーションプログラムもオープン。次の時代を作る人材の育成、ライフスタイフの変革に注力している。
www.seedsol.org/
JOHN MOORE ジョン・ムーア
社会企業家
オーガニックフード
ガーデニング教師
英国公認教師
コミュニケーションディレクター
大切なことは大自然が教えてくれる
私達人間は動物の1種。大自然と共存しています。しかし現在の私達の生活は大自然を壊すことで成り立っている部分があります。それは自分達自身を危機に陥れていることなのです。今現在の私達にとっても大切な問題、そして次の世代にとっても大事な問題です。大自然はサスティナブル(持続可能)だけれど、人間はサスティナブルではない。じゃあ、どうしたらいいか?大自然が教えてくれます。大自然から勉強しましょう。
私の自己紹介から始めます。アイルランドで暮らしていた幼少期は、祖母と一緒に生活していました。祖母はハーブの専門家で、家族11人の食事を自給自足でまかなっていました。もちろんオーガニックで、食べるものは全て自家採取した種から作っていたのです。そんな食事を小さい頃から摂っていたおかげで私の身体はとても丈夫です。
日本に来たのは約30年前。当時は電通で働いていました。その後パタゴニアでの仕事を経て、2012年に一般社団法人 SEEDS OF LIFEを自然豊かな高知県に立ち上げました。現在私は高知の山の上に住んでいます。山と話すことができるこの環境は私のお気に入りの場所です。高知の山々は人間より賢い!人生において大切なことを色々と教えてくれるのです。そして自然から学んだことをこのような講演で、日本全国のみなさんに伝えています。
私がなぜSEEDS OF LIFEを設立したのか経緯をお話しします。いま私たちの生活は次世代から自然資源を奪うことで成り立っています。私たちは、必要以上に水を使い、空気を汚染させ、人為的に操作された作物は栄養価が低くなった。そんな食べ物を食べ続けていても健康ではいられません。食べ物に力が無いからさまざまな病気にもなるし、明るい未来に繋がらない。未来を変えるには社会を、社会を変えるには一人ひとりの意識を変えることが大切なのです。SEEDS OF LIFEは一人ひとりの意識を変えるための活動を続けています。
人類が短期間に失った大きなもの
ここ100年から200年の間に現在の経済は成り立ちました。そして100年の間に、この中央集権化された資本主義経済により私たちは様々な物を失いました。大自然は人類の誕生よりも遥か昔、45億年前からずっと存在しているものです。つまり私たち人類は地球上では新入社員のような存在。そんな新参者が長い年月をかけて育まれた自然を短期間の間に破壊し、地球の未来が見えなくなっています。
この100年で大きく失われたものは、生物の多様性。食べ物となる植物でいうと約94%の種子のDNAが消失したと言われています。100年前は様々な品種の食べ物がありましたが今はほとんど残っていません。地球上の農場の約66%はたった9種類の作物を作るためだけに使われています。スーパーに行っても、年中同じような食材が並んでいますよね。食べ物の多様性が失われた分、私たちの腸の中の微生物も少なくなりました。腸内環境が弱くなりますね。それに伴い私たちの体も弱くなりました。
多様性だけでなく、栄養価もそうです。皆さんはりんごの“ふじ”は好きですか? 山に自生しているりんごとの栄養価の違いはどれくらいだと思いますか?ある研究データによると、なんと約90倍も違うんですよ。“ふじ”は甘くて美味しいけれどほとんどが水分、果糖。山りんごはそれだけではない、90倍の栄養素が詰まっているんです。他にも、食卓に上るほうれん草と道端でよく見かけるタンポポを比べると、なんとタンポポの栄養価の方が約7倍も高いんです。雑草ではないんですね。自然の中で生きているものは、環境に適応して生き延びようとします。だから力があるんです。
“SEEDS OF LIFEはサスティナブル(持続可能)な社会を育むために、意識を変える事業、社会を変える事業に取り組んでいます。セミナー、ワークショップ、イベントを通じての啓発活動、ラーニング・オーガニゼーションなどの教育プログラム、シードライブラリーを通じた地域資源の回復や、地域経済の創出、そしてプランニングやプロデュースです。私たちはこれらの様々な事業を通じて、一人ひとりの意識を変える為に活動しています。
例えばこの話を聞いた皆さんが、来週からお店で買い物するのをやめるとか。(無理とのオーディエンスの声)。それは冗談ですが、少しずつできることから取り組んで行くことが大切なんです。良い作物を作っている農家さんを見つけて、直接野菜を買うという選択をする。頑張っている生産者を応援する方にお金を使うのです。自分の一生の中で、どれだけこういったことを意識するか?が大切なんです。Choice is Magic. 買い物も未来を変えるマジックです。例えば、環境のために、できることから始めるのが大切なんです。
命を育む、社会を育む“螺旋”
繰り返し、繰り返し・・・・私たちは日常の中で同じことを繰り返ししていますが、同じことを繰り返すことはサスティナブルではないのです。繰り返しは変化を生みません。繰り返されることには、未来はない。なぜなら結果は必ず同じだから。
F1種のような、固定化された概念や仕組みは変化がなく、多様性はありません。多様性がないということは、新しい変化を生み出さないことを意味します。別の生物、別の植物が周りに無く、整備された環境で、毎日同じように育てられれば、同じものが沢山できるだけ。そこに新しい創造はありません。人間も一緒ですね。決められたことをこなすだけで、意識も一緒。そこから何か新たなものが生まれたり、変わることはない。同じことの繰り返しでは、結果も同じ、ステージも同じです。
例えば、畑で育てられた大根(左)と島大根(右)の写真を比べてください。島大根の周りには植物が色々生えてますよね。雑草?いいえ違います。自然の中に存在している本当の植物。おなじことの繰り返しではなく、置かれた環境で生き残る為に変化していくのです。螺旋のようにどんどんステージを変えて進化する。多様性があるということは次のステージに上がること、つまり未来を創出していくことなのです。これがサスティナブルなのです。
このように自然は私たちに教えてくれます。同じことを繰り返す円、“circle(サークル)”は閉鎖的で前に進めません。今以上にはなれない。しかし環境に合わせて螺旋のように変化していく“spiral(スパイラル)”は、開放的で、変化し続けていきます。これは人間の社会経済でも同じことが言えます。中央集権型のヒエラルキーの中では意思決定はトップダウン。新しい変化は起きにくいのです。これをエゴ(EGO)システムと呼びます。利益も中央に集中してしまいます。反対に、一極集中ではなく地域の経済圏でエコシステムを構築することで、リーダーが意思決定をするのではなく、全ての人をサポートする体制に変えることで、様々な変化が期待できます。それがエコ(ECO)システムです。
地方分散型で経済を回していけば、それぞれの場所で利益を生み出すことができます。そしてそれぞれの場所に合った変化をしていき、新しいアイデアも生まれていきます。地方の経済をネットワーク化させて循環していくことがサスティナブルな未来を作っていくことになるのです。
しかし、サスティナブルな社会にする前に、まずは自然資源を restore(リストア・回復させる)必要があります。なぜなら、私たちは未来の子供たちの分の自然資源を使ってしまっている、いわば借金している状態だからです。今のままの生活を繰り返していけることはサスティナブルでなく、自然資源を回復するところまでアクションしていかなくてはなりません。本当の意味でのサスティナブルな社会になるまでには、まだまだ時間がかかります。ですから、まずは“いま”できることから始めていくことがとても大切なのです。皆さんも、未来のために種をまいてください。種から種へ。未来は繋がっていきます。
JOHN MOORE