2024.05.16

【Vol.6】「注目される空間デザイナー33人展/U45」JCD TALK LOUNGE 成富 法仁×小坂 竜

2024年3月12日~15日の4日間にわたって開催された、第53回店舗総合見本市「JAPAN SHOP 2024」。日本商環境デザイン協会(JCD)ブース「注目される空間デザイナー33人展/U45」に、当社 エグゼクティブフェロー 成富 法仁が選出されました。ブース出展に加え、日本のインテリアデザインを代表する乃村工藝社 A.N.Dの小坂 竜さんがモデレーターを務めた、トークセッション「JCD TALK LOUNGE」にも登壇しました。今回は、そのトークセッションの一部をお届けします。

2024年3月12日~15日の4日間に渡って開催された、第53回店舗総合見本市「JAPAN SHOP 2024」。日本商環境デザイン協会(JCD)ブース「注目される空間デザイナー33人展/U45」に、当社 エグゼクティブフェロー 成富 法仁が選出されました。ブース出展に加え、日本のインテリアデザインを代表する乃村工藝社 A.N.Dの小坂 竜さんがモデレーターを務めた、トークセッション「JCD TALK LOUNGE」にも登壇しました。今回は、そのトークセッションの一部をお届けします。


成富 法仁
株式会社船場 エグゼクティブフェロー
エバンジェリスト 兼 Social Design Port 所長
一級建築士

小坂 竜
株式会社 乃村工藝社
A.N.D.クリエイティブディレクター
東京大学大学院工学系研究所建築学科 非常勤講師
一般社団法人 日本商環境デザイン協会 副理事

注目される空間デザイナー33人展/U45 成富 法仁

小坂氏 僕は今日、JCDの副理事という立場できています。若いデザイナーが登壇して話をしてもらうので、僕は司会として彼らの紹介をしたいと思っています。

「注目される空間デザイナー33人展」ということで、これはいろんな実績を見せていただいて、JCDが選定しました。トークショーの初回は成富君です。どういうことを考えてデザインをしているかとか、今後どういうことをやっていきたいのか、生の考えをここで披露していただきたいと思います。それでは成富君にまず自己紹介をしていただきましょう。

成富 ただいまご紹介にあずかりました成富と申します。僕は、船場という会社のインハウスのデザイナーです。当社は“エシカル”を掲げて、空間づくりの中でケアする範囲や視点を広げることを全社で取り組んでいる真っ最中です。その中で2年前にビジョンを「Good Ethical Company」、ミッションを「未来にやさしい空間を」に刷新し、ビジョンの中にも“エシカル”という言葉を入れるほどに、突き抜け始めました。

実は僕、竜さんと大学も学科も同じ大先輩でして、竜さんに憧れてこの世界に入ったので、今までで一番緊張しています。

○○っぽくない、○○にして

成富 僕は、就職氷河期に入社し、現在約19年目になるんですが、最初の方は本当にいろいろやらせてもらいました。展示会だったり、アパレルや物販だったりとか、いろいろ経験させてもらうなかで、転機となった案件についてお話できたらと思います。

入社して6、7年目の頃、デザイナーとして自身の理想と現実の乖離に苦しんでいました。そんなある時、「〇〇っぽくない、〇〇にして」というようなオーダーが多い時期がありました。例えば、ショップにカフェをつけたいとか、何か別のものを融合したいとか、本来の機能とは違うものとして見せたいというオーダーをいただくようになって、このあたりから俄然やる気になりました。

荘内銀行 泉中央支店&オフィス(撮影: 青木勝洋写真事務所) 実績ページはこちら

これは仙台にある銀行さんで、ちょうどこの頃、銀行の在り方が問われた時代でした。そこで“銀行っぽくない銀行”というオーダーがあり、カフェのようイメージでデザインしました。

荘内銀行 温海支店・ねずが関支店(撮影: 青木勝洋写真事務所) 実績ページはこちら

そしてこれも同じ銀行さんですが、地方創生などで統廃合が進み、ニーズはあるのに銀行を出せないというジレンマのなかで、役所内の講堂の用途を変えて、銀行窓口をつくりました。これも僕の中ではコンバージョンという分野で転機になった案件です。この頃から、空間で差別化したいので、成富にオーダーしたいと言っていただくようになり、働き方改革が始まった頃には、オフィスのオーダーが増えてきました。

エシカルな空間づくりとは何か

成富 ここからは僕が最近取り組んでいることについて話していきます。船場が「Good Ethical Company」「未来にやさしい空間を」を掲げて進めていることを先ほど申し上げたんですが、その際に“エシカル”という言葉を使いました。 エシカルで空間づくりをするとはどういうことだろうと、実は最初僕たちも“問い”としてありました。直訳は“倫理的な”と、すごく概念が広いので、僕たちはこれを“おもいやり”という言葉に置き換えました。もう少し具体的に言うと、“ケアする範囲を広げる”ことだと思っています。

空間づくりは人に対して思いやりのある空間、気分を上げる空間など、人を主体にデザインしてきました。じゃあ、環境への思いやりってできていたんだっけ?というところからスタートし、人だけでなく、地域社会や自然環境まで含めて、エシカルという言葉でデザインしていけばいいんじゃないかという理解で進めています。

AGEST 飯田橋テックセンター(撮影: 青木勝洋写真事務所) 実績ページはこちら

このIT企業さんのオフィスは、エシカルデザインで提案した最近の空間で、何か無理をしているという感じではなくて、やはり選ぶところでエシカルな素材を選定していくと、納得感も含めて、やっていけると今は感じています。

またクリエーションする上では、クライアントからリユースだけでなく新しいものを作りたいという要望があった際に、エシカルデザインの考え方で新たなマテリアルを作りました。

木の皮やおがくずを使って制作した天板

これは築45年以上の古い建物をリノベーションするプロジェクトで、テーブルの天板に使った素材ですが、多摩産の木材を使用するという条件の中で生まれたものです。どうしても素材にはなりきれない木の皮やおがくずを使って新しいマテリアルを作りました。他にも、残置物を可能な限り活用して、廃棄物再利用の可能性を広げることにチャレンジしました。

解体時に発生した天井下地を使ったペンダント照明

こういったことをやりながら最近の案件を通して感じているのが、環境負荷を低くするためには“壊さない”ということです。それは、使い続けるということなんですが、では使い続けるために空間としての在り方はどうしたらよいのかチームで議論してきました。

通常、空間をつくるときは完成系をイメージして100%のデザインをしたいんですが、例えばこのオフィスの案件は60%しかデザインをしていません。あとの40%は、使う人で動かしながら、空間の使われ方が変わるにつれて、空間も自由に変えていけるように余白を残しています。なので、使い方や用途が変わった時に自由にやり替えられる余白を残した60%の状態で、いかに空間として成立させられるかということを考えました。

CARTA HOLDINGS オフィス(撮影:© Nacása & Partners Inc. FUTA Moriishi) 実績ページはこちら

このオフィスでは、社員の皆さんで今後どうしていきたいかというワークショップをしながら、この空間を60%から100%に近づけていく取り組みを予定されています。これも、長く使い続けてもらったり、愛着を持ってもらうための仕掛けのひとつじゃないかなと思っています。

これからのインハウスデザイナーの在り方

小坂氏 成富君にいろいろ話してもらいましたけど、僕は乃村工藝社でデザインをやっているんですが、圧倒的に船場という会社のイメージが変わったタイミングがありました。それは3年くらい前のBAMBOOの展示会で、彼が創り出した新しいマテリアルの素晴らしい展示です。再生の材料でつくられている、ということ以前に素材としての魅力がすごくあって、これはすごいなと思いました。僕らデザイナーがみんな直面している問題意識に彼は早い段階で取り組んでいたんです。

BAMBOOの展示会で展示したマテリアルLink 詳しくはこちら

成富君はインハウスデザイナーで会社に属していますが、デザイナーによっては自分でアトリエを主催している方もいる。どっちが上でも下でもないんだけど、インハウスの方がデザインにくすぶるイメージが僕の時代にはありました。でも、今の時代どこに属していても、イノベーティブなことはできるし、成富君は多分そういう環境を会社が与えてくれたことで、インハウスデザイナーでありながら業界でもぐっと有名になっている。どこにいるから良いという話ではなくて、何を自分でやるかっていうのが一番大切かなと思います。

ただ、昔はインハウスデザイナーが活躍する場を広げていくということはなかったんです。だからそういう意味で言うと、逆にインハウスっていうことすら、自分にとってのプラスに転換していることが、彼のすごく面白いところだと思うんです。BAMBOOの展示会をみて、実はすごく焦りましたね。で、僕はうちの若いデザイナーに、あれを見に行けと。ああいうことをうちの会社もやっていかないといけないんじゃないかなって話をしたんです。成富君はインハウスにいながら、そういうきっかけを与えてくれて、いろんな新しい素材とか、デザインの価値だったり、いろんなところに影響を与えてくれています。

成富 僕が空間設計を目指すきっかけになったのが、竜さんがデザインしたある飲食店だったんです。学生の時、設計事務所でバイトをしていて「大変だなこの仕事。この業界にいけるかな」と思っていた時、商店建築でその物件を見て、インハウスデザイナーでもこんなかっこいい空間をやってる人がいるんだってことを知って、すごく背中を押されました。

小坂氏 その物件は、僕の中でも印象に残っていて、今はもう存在しないんだけど、何か困難に直面した時、今でもそこに立ち戻って、きっと乗り越えられるだろうと思えたり、いろんなタイミングで立ち返る物件です。そんな僕にとっても特別な物件に、若い成富君からそういってもらえて、なにかデザインするときって、やっぱり誰かが見てるんだなと、感慨深げになりました。

今40台前半の成富君からすると、今後はどんなフィールドでやっていきたいと考えていますか?

成富 僕はインハウスデザイナーとして会社からいい機会をもらえていて、個人ではできない立ち回り方が出来ていることに、すごくメリットを感じているので、社内の若いデザイナーをもっと元気づけたいと思っています。

若いインハウスデザイナーの子たちとコミュニケーションを取ると、自分の作りたいものが発見できていない不安や、スキルの悩み抱えすぎているなという気はしています。人とのだったり、コトや場との出会いによって、自分が本当にやりたいことや、突き動かされるものを必ずと言っていいぐらい見つけられると思うので、社内の子たちを巻き込んでモヤモヤを解消する手助けができたらいいなと思っています。

僕自身は、今年からSocial Design Portという新組織で仲間作りに励みながら、同時にそこで何かものを生んでいくことを、楽しみながらやっていきたいなと思っています。
>Social Design Portについてはこちら

小坂 デザインという素晴らしい仕事を、後輩にも伝えていきたいと僕も思っている、期待しているので「成富君頑張ってるね」と10年後、20年後も言えるように頑張ってください。

成富 はい、頑張ります。ありがとうございました。


今回はお二人のトークショーから一部を紹介させていただきました。
もっと詳しくご覧になりたい方はアーカイブ配信からご覧いただけます。
>アーカイブ配信はこちら

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