2021.06.21

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【Vol.3】コンテンポラリーデザインスタジオ we+&SEMBA

SEMBA CONNECT! Vol.3 we+ & SEMBA

廃棄建材から新たな価値の創造「Link」

第3回目となる“SEMBA CONNECT!”は、コンテンポラリーデザインスタジオのwe +。2021年春、船場はどこにいても働ける時代にオフィスの新たな価値を創出すべく、「GOOD ETHICAL OFFICE」として本社を全面リニューアルしました。その際にwe+と共同で廃棄建材のリサーチプロジェクトをスタートし、その第一弾としてアートワーク「Link」を製作。船場が現在推進する“Semba Ethical Design Thinking”に則った、廃棄建材の新たな活用方法を模索し、具現化したものです。今回のコラボレーションに至った経緯、そして今後の展開をどう考えるか?オフィスリニューアルプロジェクトのデザインを担当した成富を交え対談しました。

船場とwe+ inc.の社員のポートレート写真

MEMBER

■ 新オフィス 廃棄建材リサーチプロジェクト「Link」制作
 we+ /安藤 北斗氏、林 登志也氏、 青木 陽平氏
■ 船場本社リニューアルプロジェクト
 デザイナー/エシカルデザイン本部 成富 法仁
■ CONNECT!Vol.3ファシリテーター
 エシカルデザイン本部 伏見 百代

we+ 

we+ロゴ

リサーチと実験に立脚した独自の制作・表現手法で、新たな視点と価値をかたちにするコンテンポラリーデザインスタジオ。
林登志也と安藤北斗により2013年に設立。国内外で自主制作作品を発表する他、日々の研究から得られた知見を生かし、インスタレーションをはじめとしたコミッションワーク、素材開発やR&Dでの協業など、さまざまな企業や組織のプロジェクトを手がける。

www.weplus.jp

想いや理念を表現するモノづくり

伏見:今回のオフィスリニューアルや、we+さんとご一緒することになった経緯を教えてください。

成富:今回のリニューアルは、このコロナ禍、当社がテレワークを推奨していく中で、フロア縮小が議論されていました。しかしこのような時期なので、先行投資である程度のまとまったお金を投資するのは現実的ではないし、極力コストをかけずに機能を充足するにはどうするか考えていました。ソロワークは自宅やサテライトオフィスでできています。ではオフィスに求める機能とは?敢えて出社する意義は?という課題が出たときに、“コミュニケーション”や“繋がり”を醸成していく場所、イコール、「ハブオフィス」というキーワードにたどり着いたのです。 オフィスに求める様々な機能の中で、特に新設の配信スタジオは、社内外に対してメッセージを発信していく上で象徴的な場所になることは明らかでここはしっかりと注力すべきと考えました。コラボエリア(社内共有スペース)の一角に設置する配信スタジオの背面ウォール。ここで自分たちの想いや理念を表現する何かを作りたい、という思いから以前より親しかったwe+さんに相談したのがこのプロジェクトの始まりでした。

SEMBA GOOD ETHICAL OFFICEと船場社員 成富の画像
(左)SEMBA GOOD ETHICAL OFFICE  (右)船場 成富

成富:今回のオフィスリニューアルはいわば、一つのブランドの立ち上げと一緒。しかし、僕たちの仕事はクライアントさんのある程度明確なご意見や課題、ブランドイメージ、デザインの方向性がありながらモノ作りをしていきます。we+さんのようにモノ作りに対してリサーチを深めながら、試行錯誤を積み重ねて最終的に形にしていくという考え方で仕事をする機会は少なく、自分たちが主語となって何を作り、何を伝えるべきなのかという課題の整理に、スタートからぶち当たっているな、ということをwe+さんとの打ち合わせの中で実感しました。

安藤氏:プロジェクトを進めるにあたり、船場が現在どんな課題に直面しているか、その背景は何か、見直すべき点、解決すべき事柄を明確にしないと、深度のあるモノ作りのステップには進めないと強く感じました。そんな話を成富さんに相談したところ、 “Semba Ethical Design Thinking(以下「SEDT」)”の資料一式をいただくことになり、まずは資料の読み込みから始めることになりました。SEDTと一言にいっても様々な取り組みが同時並行で動いていて、それぞれが密接に関わりあっています。取り組み全体をどう体系化し、視覚化するかが一番最初のハードルでした。その流れの中で、今年発足したエシカルデザイン本部と繋げていただいたんですよね。船場チームともディスカッションを重ねながら、改めてエシカルの定義を考えたり、フィールドワークとして廃棄物処理の工場に伺ったり、手と足と頭を動かしながら、現状の把握や各プロジェクトのマインドマップを作成しました。みんなでSEDTを推進、具現化していくために、コピーライティングもゼロベースで整理しています。

we+ inc. 安藤氏とマインドマップの画像
(左)we+安藤氏 (右)マインドマップ

伏見:“モノを作る”という明確なゴールがあったから、深く理解していただいて、落としどころまで一緒に考えていただいたのですね。タグラインができたり、サイトができたり、we+さんとして様々なトライアルと再考との間で行き来があったと思うのですが、Linkの製作とSEDTの整理を同時進行する過程で、最終的にLinkの仕上がりへの変化はありましたか?

林氏:ありました。 Linkにおいて、2つのポイントをどのように見せるか、整理している中から出てきました。1点目はリサイクルの現状です。アップサイクルも、サーマルリサイクルも、業界では普通に行われており、約85%はリサイクルできているものの、残りの15%は混合廃棄物のためリサイクルが難しく、捨てられているそうです。デザイナーが使う素材のサンプルも混合廃棄物だといいます。それをなんとかしたいというお話がありまして、船場ならではの課題だと思いました。

2点目は、デザイナーが心を込めて作った内装が、まだまだ使えるにも関わらず、捨てられてしまう商業施設の宿命です。5年から10年の短期間でトレンドが変わるので、必然的に建て替えの話になったり、定期借地権をはじめとした不動産契約条件など環境的な問題があったりするなか、デザイナーや作り手の想いをちゃんと継承出来ることが、大切だと思いました。 また、SEDTのコンセプトから関わらせていただくことができたので、より具体的にSEDTの取り組みを知ることができましたし、コンサル的に概念だけを提示するのでなく、SEDTを自分ごととして消化し、Linkをつくるところまで一気通貫で手がけられたことはよかったと思っています。リサーチの過程で、色々できなかったこともありますが、見えていなかったことが見えるなど、発見もたくさんありました。

廃棄予定であった使用済み建材サンプルの分別回収とwe+ inc. 林氏の画像
(左)廃棄予定であった使用済み建材サンプルの分別回収 (右)we+ 林氏

安藤氏:SEDTのリサーチを進めると、「人への配慮」「地域への配慮」「環境への配慮」この3つが柱になりえそうだねと、徐々に輪郭が浮かび上がってきました。ある意味非常に船場らしい考え方かもしれません。というのも、建築的に考えると、土地があって、区画を作り、道を敷いて、その中に建物の外壁があり、内部はフロアが別れていて、大きい方から小さい方向にスケールダウンしていきます。一方で船場の主戦場は商空間。建築とは逆のベクトルで、人が起点になり、地域や環境までスケールアップする。つまりミクロに寄り添うことから始まりモノ作りをしているんです。それはユニークな切り口だなと気づきました。Linkを作るにあたって、ミクロ視点から考えていくと、内装の起点になりうるものは素材とも言えるので、今回建材素材を使って作っていくことになったんです。

素材と対峙し、気づいたこと

伏見:Linkの実際の制作はどのように行われていたのでしょうか。また、その中で気づき等はありましたか?

安藤氏:僕たちのモノ作りは素材や現象を実験することからスタートします。まずは船場の社内に集められた不要になった素材見本や、サンプル帳を事務所に持ち帰り、どのように生まれ変わらせるか、それぞれの素材を粉砕し、検証を進めてきました。

青木氏:最終的に使うマテリアルはある程度絞りましたが、実際に実験していた時間は長く、100種類以上を加工し、表情やクオリティを追いかける中で、色の幅や形状のバリエーションが揃うものはどれか、リサイクル、アップサイクルを謳ったときにふさわしい素材なのか?という視点も踏まえ取捨選択しました。

サンプルをマテリアルに戻すというのは、素材をミニマルな形にしていくということです。粉砕するとか、小さい粒子にするということなのですが、この「砕く」という作業が大変でした。今回の場合、物量が少ないので工場に依頼することができなかったんです。 今回そういった作業も自分たちでやることに対しては、ポジティブに捉えていました。普段気づけなかった気づきがあったんです。大理石を砕くと手が痛くなるとか、どの素材でも粒度を揃えるためにはいくつもの工程が必要だとか。素材と対峙したという意味では、このようなプロセスを体感できたのは良かったことです。

we+ inc. 青木氏とLink 制作過程の様子
(左)we+ 青木氏 (右)Link 制作過程の様子

青木氏:同時に、成富さん達がコンセプトメイキングを深めていく過程で、都度都度、立ち戻るポイントがありました。例えば、先ほどあった15%はリサイクルができず廃棄となる現実が話し合いで出たときに、じゃあ、今自分が使っている素材はどうなんだろう?とか、人起点でモノ作りをしている、という話が出たときには、今制作しているものは人への負担はどうなんだろう?など、制作の途中で目の前にあるものや状況を見つめ直すことは今までにない制作スタイルでした。

制作側とコンセプトメイキング、双方が少しづつすり合わせていけたから、あの形にたどり着いたのだと思います。

we+ inc.と共同製作したオリジナルマテリアルの壁
we+ inc.と共同製作したオリジナルマテリアルの壁面

消費循環の中への組み込みを目指して

伏見:リサーチプロジェクトの今後は・・・?

林氏:今回、船場とリサーチプロジェクトに取り組めたことは本当に大きな成果だと思っています。海外にはリサーチプロジェクトを行うデザインスタジオが多く、それぞれの地域が抱える問題を解決すべく新たな視点の提示を行っています。それはとても有意義なことですが、実際に社会に実装できているプロジェクトはまだまだ少ないのではないでしょうか。そう考えた時、企業とともに進めるリサーチプロジェクトには、スピード感を持って社会実装を目指せるメリットがあると感じています。

誰しもが、大量生産、大量消費をなんとかしなくては、という思いはあるものの、僕一人の小さな活動が社会にどんな波紋を投げかけられるか?ということになると、あまり意味がないと感じてしまうんですよね。だったら、気にせず好きなモノ作りをしよう、と諦めてしまいます。僕も昔から環境について考えていたので、その思いはあったものの、諦めていました。でもなんとかしなくては・・・と再び思い始めたところに、今回のプロジェクトに巡り会えたので、これが始まりなんだな、と感じました。アウトプットが魅力的であれば、見る人に「真似したい!」と思ってもらえます。それを大きなムーブメントにして、伝えていかなくてはならないと思っています。

安藤氏:今後は船場やwe+が作っているモノを大きなエコシステムの中に実装することが重要なのではないかと思います。ただ消費されてしまうことで終わるのではなく、消費そのものを環境負荷の少ない循環の中に入れ込んでいき、その消費をどうデザインをしていくかが重要になります。

そのためには、見た人が魅力を感じるデザイン性が大切。また、素材の由来からもストーリーが描けます。もう1点は継承性。解体されるまでの記憶が刻まれた素材を次世代にどう繋げるか?ということです。 Linkを制作する過程の中で、デザインとエコシステムの関係性、つまり、具体的にどうやってエコシステムの中にはめていくか、徐々にビジョンが鮮明になってきました。また廃棄建材を生まれ変わらせることによって、既存の素材にできない魅力的な表現ができれば、コスト以外での差別化、競争になってきます。コスト重視とも言えるこの業界において、新しい視点だと思います。

成富:Linkで終わらず、今後違う手法で循環型の空間・モノづくりに関するリサーチは絶対続けていくべきですし、続けていかなければならないと思います。

Linkはゴールではなく、“Semba Ethical Design Thinking”のスタートとして、今後様々なプロジェクトで社会に実装することを目指していますし、そうすることで僕たちのメッセージを色々なところに届けていきたいと思います。

船場とwe+ inc.の社員が談笑する様子

■ 関連ページ
>WORKS「SEMBA GOOD ETHICAL OFFICE」

>SEMBA  NEWS RELEASE「Link」

■ メディア掲載
>designboom

>ELLE DECOR(エルデコ) デジタル

>繊研新聞

>BAMBBOO MEDIA

>AXIS

>日経MJ新聞

>IDEAS FOR GOOD Business Design Lab

>O.E.(the Office Environment)

Photo by Yoko Iki

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