Project Member / プロジェクトメンバー
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平田 晶
CREATOR 事業本部 デザインディレクター
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福井 麻友
CREATOR 事業本部 シニアデザイナー
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朝比奈 賢哉
CREATOR 事業本部 プロジェクトマネージャー
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井戸田 功
TAIWAN SEMBA
都会に現れた癒しのGARDEN MARCHE
日本で高感度な駅ビルとして老若男女に馴染みのある「atre」、初の海外出店先として選んだのは台北市信義区。
ハイブランドが出揃う大型複合施設「Breeze南山」の中で、
「atre」の良さを活かしつつ融合させるため、GARDEN MARCHEというコンセプトで
トータルデザインをまとめていきました。
偶然の積み重ねが「atre」と台湾を繫げる架け橋となった
ー どういった経緯で、アトレ様からオファーが来たのですか?
朝比奈:もともとBreeze様(台湾のディベロッパー)で台北市の南山商業施設の計画があり、それを弊社海外法人のTAIWAN SEMBAがお手伝いしていました。
平田 :Breeze様が今回プロジェクトを進めるにあたってアトレ様に興味を持っていた中、偶然にもアトレ様より台湾への出店の相談を、弊社にいただいたのです。「Breeze南山」のプロジェクトは当社グループで進めていた案件なので、早速、アトレ様にTAIWAN SEMBAの井戸田を紹介しました。
朝比奈:Breeze様と、アトレ様、双方の想いが偶然にも重なり、プロジェクトが始まりました。
ー 今回のプロジェクトを進めるにあたってアトレ様のオーダーに応える為にどのようにチーム編成を考えましたか?
井戸田:そもそも「Breeze南山」のプロジェクトを当初TAIWAN SEMBAが進めていましたが、Breeze様からこれまでの施設とは一味違ったものにしたいとのオーダーがあり、日本の方へ相談をしたところ、それなら都市型案件中心に日本で活躍中の平田チームしかいないということになり、デザインを担当してもらうことになりました。Breezeのデザインを構想している段階で実際に「atre」が核テナントとして、2階の半分と3、4階丸々、館の2フロア半に海外初出店することが決まりました。
立地はラグジュアリーショップが近隣にあり、観光用途も有る場所です。日本の既存の施設を例えながら、ファッション的にはデザイナーズというよりセレクトショップ、お土産や、飲食を充実させる必要があると、徐々に「atre」海外1号店のイメージをまとめていきました。
全体のイメージは日本の「atre」を踏襲しますが、各フロア、テナントの個性を活かしていく細かな対応が必要です。そこで、駅ビル等に多数実績のある、平田と福井が「atre」も含めBreezeトータルのデザインをすることになりました。
― 女性メンバーが多いですよね?
平田:今回は大空間の中で、細かなデザイン対応をしてくことが必要なプロジェクトでした。女性のデザイナーに、細やかな対応を得意とする者が多かったこともあり、自ずと女性中心の構成になりました。
― お客様にとって初めての海外出店ということで、特に気をつかったのはどのような事でしょう?
福井:コミュニケーションを多く取ったと思います。
平田:そうですね、日本と台湾とでは言葉や進め方が違うので、クライアントも含めたテレビ会議を何度もして、細かく内容を詰めて行きました。
井戸田:アトレ様の担当者は日本にいらっしゃるので、台湾で日々起きていることを100パーセント理解できる状況ではありません。また文化、習慣、進め方など、日本と台湾では異なる点が結構あります。実際に現場で起きていることを直接僕の口からお伝えしながら、進めて行きました。
大きな美術館の憩いの庭
GARDEN MARCHE に込めた想い
― デザインコンセプトと、それに込めた想いを教えてください。
平田:コンセプトは、“GARDEN MARCHE” です。アトレ様からは台湾に出店しても、「atre」らしさを残したいとのご希望がありました。「atre」らしさを紐解くと、日常をすこし上質なものにする空間、潤いのある生活ということでグリーンを多用しているんです。そういう要素を入れていきたいという点がひとつ。
また、商品とお客さまの距離が近くなるように、テナントと通路の境目をきっちり区切っていません。市場のように、商品が通路側にはみ出してきて賑やかな演出がなされているので、その部分は踏襲して行きたいと思い、“GARDEN MARCHE” をコンセプトに掲げました。
また、先に進行していた「Breeze南山」のデザインコンセプトは“AUTHENTIC MODERN MUSEUM” ゴージャスな美術館でファッションや食べ物を眺め、楽しめるような空間をイメージし着手していたので、「atre」との融合をどうしようかとても悩みました。最終的には大きな美術館の前に広がるお庭、というストーリーをイメージして全体をまとめました。
4階部分にはデッキがあり、そこにテラス席を並べました。その部分が一番外部と接することができる場所だったので、空中庭園に見立てて、“GARDEN MARCHE”の象徴的な部分となれば良いと思いデザインしました。
―「atre」の持つ世界観をどのように表現しましたか?またゴージャスな印象の「Breeze南山」とどの様に融合しましたか?
平田:もともと「atre」をそのまま台湾に持っていくつもりはありませんでした。日本の「atre」は高感度駅ビルではあるのですが、とても可愛らしいイメージが主だっています。台湾に持っていくにあたって、台湾の女性はどうだろう?と考えたときに、実年齢より大人びていて、セクシーさを好む傾向があるのでは、と気づき、大人っぽい要素を加えて創っていこうと思いました。
一方で「Breeze南山」が持っているラグジュアリーな印象をガラッと変えることも考えていませんでした。お互いに持っている要素をうまく引っ張りつつ、ミュージアムとその庭として、融合する様デザインを詰めていきました。
基本構想では「Breeze 南山」はダークで、シック、印象としては暗くてムーディーな感じの提案をしていました。それに対して「atre」は屋外空間で明るく日差しが降り注ぐエリア。同じ空間を明るさの違いで差別化しようと思っていましたが、進めていくうちに「Breeze 南山」サイドもどんどん明るい印象に変更して行き、最終的にはうまく融合しました。
福井:最初は、「Breeze南山」のゴージャスな空間に、どのように「atre」を融合させるかイメージできなくて、むしろ際立ってしまうのでは?と恐れていました。しかし進めていくうちに、表現したい空間コンセプトは違えど、両方のエリアで同じ素材を使うことで、それぞれの待ち合わせているイメージや良さを引き立たせ、館全体としてのイメージも分離してしまわないようにできることなど、発見のあったプロジェクトでもありました。
異文化間での多くの制約は
密なコミュニケーションと細やかな対応で解決
ー「atre」出店テナントにおいては施工まで担当していましたが、イメージを具現化する際に気を配った点は?
朝比奈:テナントでそれぞれ、「台湾である程度事業をされている」「今回台湾に初出店」「日本で打ち合わせを進めたい」「日本にデザインを全て任せているデザイナーがいる」・・・などと状況は様々でしたが、みなさん共通していた思惑は、船場に任せているから、というものでした。
実施設計は 現地法人のTAIWAN SEMBAであっても、日本の企業にオーダーしている感覚でお客様は考えているので、現地の慣習でできないことを説明しても、「それは分かっている、でもそれを解決して欲しいから船場に頼んでいるんだよ」との想いが全てのテナントに共通していました。
そういう点では、先ほども話題に出た、コミュニケーションに気を遣いました。
異なる文化圏で、変えられない事実や慣習に対して、どのように伝えたら納得いただけるか?また、それら変えられない制約がある中で、我々がどのようにクライアントのニーズを具現化し、解決していくか?という部分が一番難しかったです。最終的には TAIWAN SEMBA に無理なお願いもいくつかしてしまいました。
しかし、今回のプロジェクトほど、密にコミュニケーションを取り合って細かく進めた案件は、知っている限り初めてだったと思うので、すごくいい経験ができたと思っています。
ー コミュニケーション以外で、異なる文化圏で苦労したことは?
井戸田:材料問題は大きかったです。日本で普及している材料と同じものが台湾にあるとは限りません。日本人は嗜好が細かく、例えば緑色の素材が日本で10種類あるとしたら、台湾では2〜3種類しかない。日本では、できるだけイメージに近いものを多くの中から選べても、同じ感覚で台湾に持ってくると、選べる素材に限りがあるから、思い描いていたイメージと変わってしまうんです。そうなると、材料そのものを変えなくてはなりませんでした。
平田:デザインを考えても、台湾にある素材に全て置き換えて、調整し直したり、予算の制限を越えない範囲で、現地のスタッフに代替素材を探してもらったりしました。多くのテナントさんは当然日本にいらっしゃるので日本の感覚で考えます。しかし、実際に進める現地ではその感覚が通用しないので、細かな修正、調整が必要でした。
ー 今年1月に実際にオープンして、施設に集うお客様の反応をみて感じたことは?
朝比奈:オープンしたときは、正直ホッとしました。先ほども話が出ましたが、異国間でプロジェクトを進めるにあたって、様々な制約や、法規的な問題などクリアしなくてはいけないことが、とても多くあったので、オープンも延びてしまうかと正直思っていました。いざオープンするとお客様も沢山来ていてアトレ様も安心されていたので、本当によかったと思っています。
井戸田:予想以上にお客様が入っているので、これが長く続くといいなと思いました。仕上がりも日本の施設っぽさが、良い意味で反映されていると思います。
福井:お客様が実際に施設内を歩き、商品を手にとる姿を見ていたら、とても楽しそうにしていたんです。デザイン面では反省点が色々とありましたが、オープンしたときは本当に嬉しかったです。
平田:あの大きな商業施設の中で、「atre」のフロアに特に多くのお客様が集中しているのを見て、台湾でも「atre」が受け入れられている喜びを感じました。福井も言った通り、デザイン的に反省すべき点は多くあったものの、オープンしたときの喜びは大きかったです。
「成功して良かった!」では終わらない
次のプロジェクトの課題に繋げることこそが大切
ー 今回のプロジェクトで、今後も活かしていけると感じた、新たな気づき、発見があれば教えてください。
井戸田:感じたことは、信頼関係が大切ということです。これは今までも大切にしてきたことではありますが、今回のプロジェクトでアトレ様の担当の方と信頼関係を築けたことも、成功の要因と思います。
今後活かしたいという点では日本と台湾と離れた場所で進めて行くにあたって、日本でのやりとりに直接参加できなかったので、話し合いの結果を待つ、という時間を今後できるだけ少なくしていけたら、より円滑になると感じました。今後この経験を活かしたいですね。
平田:デザインをスタートした時点では、日本と台湾で異なる素材や、状況を把握しきれていなかったため、当初は現地で多くのご苦労をかけてしまいました。今後は手がける国の現地にどんなものがあるのか事前にリサーチをして臨むことで、日本でのスタンダードでなく、現地のスタンダードでデザインすることができるので、よりイメージに近いものができると感じました。
福井:今回のプロジェクトでは予想以上に、法的な規制に阻まれたので、そういう規制というのは、海外では多々あるものだという気づきができました。それによって、今後は臨機応変に対応し、何事にも動じない自分でありたいと思ったプロジェクトでもあります。
朝比奈:船場としては今後も海外のプロジェクトをどんどん増やしていこうと考えている中、現地法人との共同プロジェクトもどんどん増えて行くと思います。しかし、海外法人は現地でのクライアントとの仕事も抱えて、業績を積み重ねなくてはならない状況の中で、一方的に日本からプロジェクトを持ち掛けてもうまく連携しなければ現地の負担ばかりが増えてしまいます。
今回皆が言っていた課題を解決していくためには全社的に取り組んでいかないと、都度課題に直面し解決することになります。そういう意味でも今回の失敗したこと、成功したことを検証し、全社で共有して行くことで、それぞれがどういう立ち位置で、どの様にプロジェクトに関わるかを、より具体的にイメージすることが、より良いものを創っていくために必要だと考えます。
日常生活の一部となる空間 毎日の生活の癒しの場として
「atre」の初出店に台湾が親和性が高いことは、以前に実施した台北でのプロモーションイベントの経験等から実感していました。そのような中で、三井物産様を通じBreeze様とのご縁があり、今回出店に至りました。
私たちはこの施設を、買い物だけを目的にたまに訪れる場所ではなく、日常生活の中で頻度よくご利用いただけるような施設になることを目指しました。ライフスタイルを切り口としたMDの配置や環境づくりは台湾の人々にとって新しい価値の提供となるのではないかと考えたからです。
今後も、お客様が毎回訪れるたびに季節の移ろいや新しい発見に出会えるよう、環境演出や店頭でのプレゼンテーション等、この施設を通じて台湾のお客様とコミュニケーションを取りながら、新しい価値を提供し続けていけたらと思います。また、本件でのBreeze様とのご縁を大切にしながら台湾での2号店も検討中です。今回の1号店が試金石となって、海外に通用する更なる可能性を模索していきたいと思います。
山田 様
株式会社アトレ 成長戦略室長
日常生活の延長上にあるちょっとした上質感の提供や、買い物や食事だけでなく、atreで過ごす時間に価値を見出していただくことが、台湾で目指したことの一つでありました。そんな中、atreの想いをこの地に届けることができるのか、とても不安な日々を送りましたが、開業を迎え、人が集い賑わう店内を見たとき、atreらしさをカタチにし時間的価値の向上に寄与できたことを実感しました。
また船場チームの印象は、お世辞なく素晴らしいチームでした。
それは、新しい国に進出していく中で全てが初めてだったことに加え、普段とは異なるスキームでの事業展開等、これまでの常識が全く通用せず、時折諦めモードになってしまった私たちを諦めない姿勢で牽引してくれた平田さん、福井さんのタフな仕事ぶりにはとても助けられました。また、マネジメントの堀田さん、朝比奈さん、現地(TAIWAN SEMBA)の井戸田さんも、其々の担当で決められた役割がありながら、自ら積極的に担当業務領域を越境する姿に頼もしさを感じるとともに、チーム全体の志気の高さが良い雰囲気を創り上げ、プロジェクトを成功へと導いてくれたと感じました。
山田 様
株式会社アトレ 開発企画部 主任
都会に現れた癒しのGARDEN MARCHE Breeze 南山「atre」
■所在地 | 台北市信義区松智路17號 |
■業種 | 複合施設(51店舗) |
■オープン | 2019年1月 |
■担当者 全体ディレクション・監修 | CREATOR 事業本部副本部長 池田 忠 レゾナンス・ラボ 所長 加藤 麻希 |
■環境設計・デザイン | CREATOR 事業本部 デザインディレクター 平田 晶 CREATOR 事業本部 シニアデザイナー 福井 麻友 |
■内装監理業務及びテナント設計施工対応 | CREATOR 事業本部 プロジェクトディレクター 堀田 卓則 CREATOR 事業本部 プロジェクトマネージャー 朝比奈 賢哉 |
■実施設計 | TAIWAN SEMBA CO.,LTD. 井戸田 功 TAIWAN SEMBA CO.,LTD. 王 韻涵 TAIWAN SEMBA CO.,LTD. 周 家儀 |
■インタビュー参加者 | デザインディレクター:平田 晶 シニアデザイナー:福井 麻友 プロジェクトマネージャー:朝比奈 賢哉 TAIWAN SEMBA:井戸田 功 |
■ 施設写真 | © Nacása & Partners Inc. FUTA Moriishi |