2024.06.25
できるだけ廃棄物を出さずオフィス拡張移転を実現したスパイスファクトリー本社移転プロジェクト
DXを支援する企業「スパイスファクトリー(株)」の本社オフィス拡張移転プロジェクト。リモートワークが増えオフィス面積を縮小する企業が多いさなかで、同社はオフィスの拡張・移転を2023年8月に実施しました。スパイスファクトリーと船場が取り組んだサステナブルなオフィスづくりについてご紹介します。
DXを支援する企業「スパイスファクトリー(株)」の本社オフィス拡張移転プロジェクト。リモートワークが増えオフィス面積を縮小する企業が多いさなかで、同社はオフィスの拡張・移転を2023年8月に実施しました。スパイスファクトリーと船場が取り組んだサステナブルなオフィスづくりについてご紹介します。
Project Member / プロジェクトメンバー
-
流郷綾乃氏
スパイスファクトリー(株)
取締役CSO
-
高橋 亮裕
(株)船場
EAST事業本部
営業担当 -
斎藤 智哉
(株)船場
EAST事業本部
設計・デザイン担当 -
金濱 夏央
(株)船場
EAST事業本部
制作・施工担当
——オフィス移転の経緯や想いを教えていただけますか?
流郷氏 事業を拡大する中で社員数が増え、オフィスに全社員が入りきらず、分散出社にしなくてはならない状態になっていました。元々5階建てのビル一棟に入居していたため、部署間交流がとりにくかったのですが、それに加えディビジョンごとで分散出社を始めると、横の交流が全くなくなってしまいます。それってコミュニケーションの面で課題だよねということで、1フロアのオフィスに移転したいと考えていました。
同時に、ゼロベースでのオフィス移転では、産業廃棄物を多く排出してしまうことを懸念していたので、なるべくごみを出さない居抜き物件への移転に当初より強いこだわりを持っていました。スケジュールの面でも、すでに分散出社が迫っている状態だったので、居抜き物件であればクイックに移転ができる点も合理的だと感じていました。
——オフィスの居抜き物件への移転、船場としては珍しいケースでしょうか?
斎藤 珍しいですね。店舗だとよくあるのですが、オフィスではなかなか…。内装工事では原状回復で、基本的には退去のとき、元に戻すというルールがあるので。
流郷氏 居抜き物件に絞った物件探しだったので、そもそも候補があまりありませんでしたね。我々のようなスタートアップで事業拡大を目指す会社にとっては、2、3年して次の移転を考えなくてはなりません。そのときに、毎回退去時に原状回復をして、入居時に内装をゼロベースで作っていくのはコストや環境への負担がとても大きいです。私たちを含め、ベンチャー企業のことを考えると、居抜きのオフィス物件がもっと増えてくれたらいいなって思います。
——コミュニケーションを促進するオフィスにしたいという思いも強かったんですね。
流郷氏 当社は週一出社が原則という決まりなので、来たくなるオフィスにしなくてはならないし、来たときにはコミュニケーションが活性化する環境をつくるのが一つのゴールでもありました。
ちょうどコロナ禍の影響でリモートワークの活用が進み、このビルのテナントもごっそり退去したんです。ここはもともと大企業が多く入居するビルだったのですが、コロナを経て我々のようなベンチャー企業も増えてきているようです。オフィス自体をなくそうみたいな風潮が一気に出ていた中で、その逆をいこうと邁進していました。コロナ以前からずっとリモートワークがベースだったので、やっぱり対面で人と会って、顔見て話すことも非常に重要だっていうことは前々から感じていました。今回のオフィス拡張移転は、オフィスをどう活用するか、オフィスをアイディアが生まれる場にしたいと考えていました。
——船場にお声がけいただいたきっかけは何だったのでしょうか。
流郷氏 きっかけは(株)VOYAGE GROUP(現:(株)CARTA HOLDINGS)さんからの紹介でした。当社の代表やメンバーが(株)VOYAGE GROUPさんのオフィスにお邪魔したときに、かっこいいよねと言っていて。みんながそう思うということは人を引きつける空間なのだろうなと思い、船場さんを紹介していただきました。他にも3~4社検討していたのですが、最終的な決め手は電通オフィスリニューアルのリサイクルレポートのリリースやエシカルマテリアルリサーチノート等で分かりやすくまとめられていたエシカルデザインの取り組みです。私自身サステナビリティの責任者でもあるので、移転に伴う廃棄物は極力なくしたかったので、そういったノウハウをお持ちの船場さんにお願いしました。
——コンセプトは「触発するオフィス」ですが、これにはどのような想いがあったのでしょうか。
流郷氏 サステナビリティ・コミュニケーション・創造性をテーマにしています。私たちのMissionが「革新の触媒」というのもありましたし、なによりコミュニケーションの面で週に一回オフィスに来たときに、刺激があって発想力に寄与するような場にしたいという思いがありました。
斎藤 店舗設計ですと、具体的に空間を連想できるキーワードやテーマをいただくことが多いのですが、今回は考え方のキーワードをいただいたので、目線合わせには苦労しましたね。人によって捉え方が変わってしまうようなところを空間に落とし込まなくてはならないので。企業理念であったりとか、社長の思いだったりを吸い上げながら具体的なデザインを決めていきました。会議室では、スクラムというシステム開発に伴う5つキーワード「確約」「勇気」「尊敬」「公開」「集中」を各部屋で表現したのですが、我々も聞きなれない言葉を空間にするのが難しく、想像を膨らませつつ、ああじゃないこうじゃないと言いながら、なんとか設計しました。
流郷氏 当社は創業よりアジャイルマインドでスクラム開発(チームを組んで役割やタスクを分散しつつ、コミュニケーションを取りながら行うシステム開発の手法)の手法を取り入れ、様々な企業様とWebシステムを開発し成長してきたという経緯がありまして、この部分はトップの強い思い入れでもありました。また、各部屋にイメージカラーを設定しデザインをお願いしました。「集中」はブルー、「公開」がイエロー、「尊敬」はオレンジ、「勇気」はグリーン、「確約」はレッドです。
斎藤 この会議室で今使っているテーブルは以前ここに入っていたオフィスが使っていたものをそのまま使っています。また、オフィスの不動産仲介を担当していた協力企業の株式会社FRS経由で別のオフィスビルで撤退が決まっているところに見に行って、使える家具を引き取りに行ったりもしました。
高橋 スパイスファクトリー様とFRS(フォーバル・リアルストレート)様、船場のプロジェクトメンバーみんなで行きましたね。スパイスファクトリー様に現地で使いたい物を選んでいただきながら、船場では、デザインに合うのか検討したり、台数が足りるのか計算したりしました。
流郷氏 パズルをしているような感覚でしたよね。笑
斎藤 それだけではなく、スパイスファクトリー様の前オフィスで使っていた家具はできる限り持ってきているのですが、経年で傷んでいたりする部分は船場で修繕して使用しています。転用家具や移設家具をリスト上で管理していました。
流郷氏 一度補修しなくてはならないもの、そのまま持ってきて使うものの仕分けも大変でしたね。サステナビリティって本当にやろうとするとかなり大変だし、結構気合がいるんだなと改めて感じました。買ってしまえば簡単なんですけどね。
斎藤 なるべく新規での作り物は少なくするという方針でしたが、どうしても新しく作らなくてはならない家具については、目に見える形でエシカルマテリアルを使用し、来社した方にストーリーを語っていただけるような物にしました。廃材を固めて作った素材を受付やカウンターバックで使ったり、古布の生地を裁断しプレスして生成した仕上げ材をテーブルやカウンターに使用しています。
高橋 また、スパイスファクトリー様のパーパスである「1ピクセルずつ、世界をより良いものにする。」をイメージして受付にアートボードを設置しています。社内にワインサークルがあると伺っていたので、そこで出たコルクを今後は捨てずに活かせるように、ワインボトルのコルクを刺して遊べる仕様になっています。皆様に使い方を知っていただくためのデモンストレーションで使うコルクは僕が調達してきたものなんです。友人を伝ってフランス大使館のパーティーで出たコルクを持って帰ってきたり、地道に僕が飲んだものだったりを集めて、オープン時には「SPICE FACTORY」のピクセルアートを施しました。
——今回工事では94.3%のリサイクル率でした。施工現場での工夫はあったのでしょうか。
金濱 タイトな工期の中で、実際に現場で作業する職人さんたちに分別をしていただくので、今回は品目ごとのコンテナを置き、視覚的にわかりやすく分別ができるように現場環境を整えました。正直、現場で出たごみを分別せずに一緒くたに袋に入れてしまう方が早く終わるのですが、高いリサイクル率を実現するため、しっかり時間を確保し、丁寧に分別したり、掃除したりという地道な作業を積み重ねました。
廃棄物リサイクル率を高めるためには、産廃回収の協力会社さんとの連携が欠かせません。今回、現場に設置したコンテナは、協力会社さんに貸与いただいたものなのですが、コンテナ自体にQRコードがついていて、それを読むと何の品目コンテナなのか、どのくらい積載されているのかを確認することができます。木材や鉄など品目別にシステムに登録して回収することで、管理がしやすく、スムーズにリサイクルに出していただくことができました。ここまで細かく分別・管理するためには、現場の広さや保管場所が必要ですが、できるだけ現場に負荷をかけないやり方を試行錯誤しながら、産業廃棄物ゼロを目指しています。
——全体排出量が21㎥とのことで、少ない印象を受けますが。
高橋 物件にもよりますが、このくらいの規模であればもっと出る印象ですね。今回は居抜き物件であることも大きくかかわっています。先ほどお話ししたテーブルだけでなく、会議室の間仕切りであるパーテーションなど、細かいものもできるだけ前に入居していたオフィスが使っていたものをそのまま再利用しています。そういった取り組みがそもそもの排出量の抑制につながっています。
——最後に、移転して数か月がたちますが、社員の皆様からの反応はいかがでしょうか。
流郷氏 社員からも評判がよく、特に眺めのいい窓際エリアは人気です。コミュニティスペースでのコーヒー待ちの時間や、クロスしたデスク配置のおかげで、社内の交流は促進しているように感じます。
サステナビリティを踏まえた移転は私自身初めての経験でしたし、消費する文化を当たり前として生きてきているので、先にもお話した通り本当にやろうとするとかなり気合が必要でした。それでも意識を向けることが大切ですし、それだけでなく、お互いに協力しないと実現できないことだと実感しました。今回の移転プロジェクトは、一つのチームとなり、違う会社でありながらもコンセプトに忠実に一人一人が真剣に向き合い、チームで話し合いながら進められたことがサステナブルなオフィス移転を実現できたのだと思っていて、本当に感謝しています。
スパイスファクトリー株式会社
360°デジタルインテグレーターとして、デジタル領域の課題に幅広く対応。事業サービス構想の支援、システム開発、UI/UXを取り入れたデザインの設計、マーケティング支援など、一気通貫でサポート。Missionは「革新の触媒」であり、Purposeは「1ピクセルずつ、世界をより良いものにする。」。社会課題解決を追求し、新たなビジネスやイノベーション創出に貢献。
>公式Webサイト:https://spice-factory.co.jp
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