2024.07.24
東海のモノコトづくりからSocial Designを一緒に考えるSDPツアー/後編
船場のSocial Design Port では、船場社員と社外パートナーが共に、実際に現地に足を運び、物事の本質や、地域の課題を学ぶツアーの実施をしており、今回は東海地方のモノコトづくりの現場を回りました。そこで見た景色の中には、人がモノと向き合い、情熱をかけて挑戦する姿、そして未来にかける想いがありました。
後編では、ツアー2日目淺沼組名古屋支店・24PILLARS・アーティストリー・立風製陶の各社で行われているものづくりの風景をお伝えします。前編はこちらからどうぞ。
船場のSocial Design Port では、船場社員と社外パートナーが共に、実際に現地に足を運び、物事の本質や、地域の課題を学ぶツアーの実施をしており、今回は東海地方のモノコトづくりの現場を回りました。そこで見た景色の中には、人がモノと向き合い、情熱をかけて挑戦する姿、そして未来にかける想いがありました。
後編では、ツアー2日目淺沼組名古屋支店・24PILLARS・アーティストリー・立風製陶の各社で行われているものづくりの風景をお伝えします。前編はこちらからどうぞ。
人と建物の関係性を育む、自然の循環とともにあるオフィスビル「淺沼組名古屋支店」
ツアー2日目の朝。最初に訪れたのは、大阪を本社に全国に展開する総合建設会社の淺沼組。JR名古屋駅から車で10分ほどの場所に名古屋支店があります。近づいていくと、都会の真ん中に現れる、木の列柱と土色の壁、青々とする植栽が印象的なオフィスビル。淺沼組が進めるリニューアル事業のフラッグシップとして、環境配慮型リニューアルのプロトタイプ「GOOD CYCLE BUILDING」を完成させました。
築30年の既存ビルの躯体を生かして、後から加える素材はできるだけ自然素材を用いて、『いずれ、土に還る建築』を目指しました。

元はガラスのカーテンウォールで覆われていたというオフィスには、ベランダ空間がつくられ、緑豊かな植栽が彩りを添えています。ファサードには、竣工時淺沼組が創業130年の節目を迎えるのにあたり、樹齢130年ほどの吉野杉が取り付けられました。
「淺沼組は、奈良で創業し、宮大工として寺社仏閣や学校建設などの木造建築に携わってきた歴史があります。今回は、淺沼組と長く関係が続く、奈良県吉野より吉野材を取り入れ、ファサードやオフィスの内装材、家具などに活用し、できるだけ端材を出さないよう取り組んでいます。また、土については、淺沼組の携わる愛知県の作業所から出た建設発生土12トンを使い、社員が120名ほどワークショップに参加し、土壁を塗りました。木や土といった自然素材を使うことは、人がそこに手を加え、プロセスを通して建物がどのようにしてできたかを体感することができます。それが、結果、オフィスに愛着を持って長く使い続けられることにつながります」と話すのは、淺沼組名古屋支店長の長谷川清さん。
徹底的に『循環』にこだわることは手間もかかり、大変なこと。それでも、やり切ることができたのは、多くのデザイナーと協働し、それぞれの分野で『できることは何か』ということを共に考え、実験をしながらつくりあげられたからだと言います。



オフィスエントランス。天上のスラブを抜いて、開放的な吹き抜けの空間に改変され、奥の増築の階段室から柔らかく自然光を取り込んでいます。エントランスホールの横にはこの建物を象徴する、土・木・アップサイクルの応接室が並んでいます。




淺沼組技術研究所長の山﨑順二さんは、技術研究所で建設発生土の成分の分析調査を実施し、「還土ブロック」の開発や、土壁施工のためのアップサイクルを進めました。
「私は、普段、コンクリートの材料研究を行っていて、土を扱うことになるとは思っていませんでしたが、やってみると非常に多くの方から共感いただけたことに驚いています。『還土ブロック』は、日本古来の版築工法で、突き固めてつくりました。通常、建物の中で土を持ち込んで、その場で突き固めていくことは難しい。それをブロック化することで、人が持ち運べて積み重ねていくことができれば、作業を効率化しながら土を取り入れていけると考えました。名古屋支店完成後も、構造安全性や耐火性を検証する実大実験を行い、データ化していくことで、今後さらに土を利用していくことが社会に広がっていければと思っています」(山﨑さん)

各階に設けられたベランダ空間。「都会の中の里山」をコンセプトに、130種類もの植栽が植えられた。社員たちが自然とのつながりを感じられるよう、エディブルなグリーンが入れられ、メンテナンスも自分たちで行っています。

吉野杉の柱は、乾燥前で取り外し可能な状態で取り付けられました。通常、木材を使うのに必要な乾燥工程を省き、ビルのなかで乾燥させ、木材を貯蔵する。乾燥後は、家具などの材料に転用できるように考えられました。
2階の来客用の打ち合わせ用スペースには、廃ペットボトルを再利用したカーテンや、端材を固めてつくられたテーブルなど、プロジェクトに関わった人たちによって、『循環』をキーワードに空間が構成されています。



「現場では、建築家・職人・施工者が議論しながら『どうやって面白く循環に取り組むか』と考えながら進めていきました。オフィスの壁は、左官の熟練の職人の久住有生親方の監修のもと、みんなでつくった壁。通常、土壁は汚れるということで敬遠されがちで、上に樹脂などのコートを塗られることも多いですが、今回は自然素材そのものであることを大切にしているプロジェクトのため、土にできるだけ人工物を混ぜないことに取り組んでいます。土壁は水さえ混ぜれば、修理することが可能です。大切に扱っていれば、美しく長持ちする。『楽しみながらものをつくる』というものづくりの原点を感じ、笑いの絶えない現場でした」(山﨑さん)

自然循環と共にある、オフィス。土や木があることで、オフィスの壁や床、家具にも触れたくなる。現代社会においては、「汚れないか?衛生的にどうか?」と過剰に反応されがちですが、自然の中にあれば移り変わりが美しく、自然と共にオフィスが育まれていくようにも感じられます。
「何かやり残したことはありますか?」という問いに対し、長谷川支店長は「徹底的にできることはやり切ったという思いがある」と言います。
「ただし、これが全てではないし、正解ということでもない。環境が変われば、課題も違うなかで、その時に導き出せる最適な解決策を考えていかなければいけません。循環型の建築に取り組むことは、一社の力だけではできないこと。たくさんの分野の方と技術力を持ち寄り、想いを共有しながら、共創することで、この先も新たな可能性や価値を見つけていきたいと思っています」
淺沼組名古屋支店
所在地:愛知県名古屋市中村区名駅南3-3-44
竣工:2021年9月
設計:川島範久建築設計事務所+淺沼組
技術開発+施工:淺沼組
https://www.goodcycle.pro/
https://www.asanuma.co.jp/
感性を刺激する場で、人と人、人と木のつながりを生む「24PILLARS」
続いて一行が向かったのは、名古屋駅から東に伸びる鉄道の高架下を敷地としたギャラリー・工房・カフェの複合店舗「24PILLARS」。名前の由来は、高架下の構造体の柱が24本並ぶ空間から取られています。



以前は、家具製作会社に勤務していたというオーナーの勝崎慈洋さん。職人の働く環境や地位を向上させたいという思いで独立を決意し、「Dala木工」を設立。その後、コロナ後にこの地に工房兼カフェ・ギャラリーをオープンさせました。当初はこんなに広い敷地を想定していなかったということ。高架下という敷地を生かし、工房でのワークショップや定期的に展示を変えるギャラリーの企画、音楽イベント、カフェ利用などさまざまな用途で使われています。多種多様な人々が混じり合い、ここでしか出会えないものが生まれる場所となっていました。



「工場に置いてある機械は最低限の設備ばかり。ひたすら人力で形にしています」と言う勝崎さん。木の個性とクリエイティブな発想を掛け合わせて生まれた、見たことのないような個性的な家具が並んでいました。




24PILLARSでランチタイム。クリエイティブあふれる場所で、美味しい料理をいただくと、心も満たされて笑顔が広がります。
24PILLARS
所在地:愛知県名古屋市中区金山3-4-16
instagram:@24pillars
https://www.24pillars.online/
https://dalamokko.net/
5軸CNCで木材を3次元に加工して、木工表現の可能性を開く「アーティストリー株式会社」
続いて訪れた「アーティストリー」は、5軸CNCと3DCADに職人技術を融合させて木工の新しい表現を追求する、愛知県の春日井市を拠点にする内装業界の特注家具製作会社。30名近い職人が4チームに分かれ、年間400件ほどの商空間の案件に関わります。
以前は、飛騨の家具メーカーで職人をしていたところから転職し、今は営業を行う大西功起さんは、「家具製作という専門業者は、仕事が完成しても表に出られる存在ではなかった」と言います。
「これまで仕事をしても、自分たちの製作ということを表に出すことができないということをもどかしく感じていました。内装業界での立ち位置は、一番低いところにある。職人の仕事の未来をつくっていくためには、“下請け”から脱して自分たちで活躍の場をつくることが必要と、家具の製作から営業に移り、新しい商流を開拓してきました」


最近は、国産材利用を推進する時代の流れを受け、さまざまな企業が国産材を使いたいと考えているが、具体的にどのように進めたら良いかわからないというところも多いそう。そういった企業に対し、国産材の活用、プロポーザルへのアドバイスや、林業のプレーヤーを紹介するなど、「木材利用監修」も業務として広げています。また「3DCAD訓練」として、自社のデジタル技術をオープンソース化することで、業界の発展にも貢献しています。発注者からの「こんなデザイン考えたのだけど、つくれますか?」という要望にも、開発チームが3Dで図面起こし、製作チームが、形にする。今では「サウナ監修」も加えるなど、木工製造から新しい業務に展開を進めています。




「転機になったのは、『わの休憩所』と名付けた、自社の休憩所をつくったことでした。コロナで仕事の量が減った時に、オンラインサロンに参加し、そこで出会った学生たちを対象に、アーティストリーの技術で新しいものをつくらないかと募ったところ、全国から7人の学生が参加することになりました。学生たちはアーティストリーの5軸CNC×『3DCAD×職人技術』を最大限活かすために、パラメトリックデザインによる3次元デザインを提案。学生と職人たちがコラボして、有機的な曲面形状の休憩所が完成しました。わの休憩所を通して、屋外でこんなことができるんだということを皆さんに知ってもらい、『今まで諦めていたことができるのではないか』、そんなことを考えるきっかけになればと思います」 (大西さん)


「わの休憩所」が話題となり、今では全国からたくさんの見学者が訪れるようになったということ。「木工作品を外に置くとどうなるか」という実験も兼ねているということで、風雨に晒されていてもこの美しさが保たれています。
古来より日本人の身近に存在する木で、まだ見たことのない、新しい表現を追求する。共創することでチャレンジが生まれ、新しい時代を切り拓いていく。新しい価値が生まれる時は、ワクワクするような場所で始まることを感じる、ものづくりの風景でした。


株式会社アーティストリー
所在地:愛知県春日井市西本町三丁目260
http://www.artistry.co.jp/
https://www.instagram.com/artistry_tech/
土の循環リサイクルシステムを構築し、工場内の産業廃棄物0を実現する「立風製陶」
ツアー最終地は、岐阜県土岐市にある老舗のタイル製造メーカー「立風製陶」。東海地方は、焼き物を生産する良質な土壌に恵まれ、岐阜県・愛知県で全国のタイル生産量の第一位を占めるほど、全国屈指の陶磁器の産地です。立風製陶は1914年に美濃焼の生産地である岐阜県土岐市で創業し、とっくりや食器などの暮らしの器から始まり、1988年に現在の事業であるモザイクタイルの生産を開始。世界でも最大規模という108mあるトンネル状の長い窯で焼成し、大量生産を行っています。






特に印象的だったのは、立風製陶のリサイクルシステムの構築。20年ほど前からリサイクルタイルの開発に取り組み、立風製陶で生産しているタイルはほとんどが再利用された原料を58%以上含んでいます。2023年にはリサイクル率100%のタイル生産も可能にしました。 従来は産業廃棄物として廃棄されていた工場で生まれる余剰分の焼成前原料、余剰分のタイルを施釉品と無釉薬に分けて回収。廃棄タイルと、廃棄食品を粉砕したものや窯業廃土、釉薬汚泥などのリサイクル原料に、標準のタイル原料を混ぜ、土として再生させます。また、施釉設備の洗浄水は、釉薬の固形物を水と分離させ、釉薬汚泥はリサイクルタイルの原料に。水は再び洗浄水として循環利用させるという、徹底的なリサイクルを実施しています。




なぜ、このような循環システムがつくられているのか。商品開発を担当するデザイン&クリエイティブセンターの加藤孝典さんは「長い年月、土を掘り続けてきたことで、資源の枯渇の問題がある」と言います。
「この辺りは、元は海域だったため、良質な粘土質の土が取れ、古くから焼き物が生産されてきました。土は有限で、大切な資源を無駄にはできない。廃棄されてしまうタイルを無駄にすることなく、循環させていかなければ次の世代に残していくことができません。私たちは当たり前のこととして、やり続けてきたこと。今は、SDGsやサステナブルと言われる時代になり、ようやく社会が追いついてきたという感じがあります」

今あるものに向き合うことで、自ずとやらなければいけないことが見えてくる。生きるための知恵として研究開発を進め、時間をかけながら取り組む実直な姿勢。一つのタイルは、人が年月をかけて積み重ねてきた努力の結晶のようにも思えます。



立風製陶株式会社
所在地:岐阜県土岐市下石町141
https://www.rippu.com/
東海地方の、モノコトづくりに触れた2日間。産地に足を運び、手で触れ、目で確かめ、情報を取りにいくことで、私たちの心が動かされる。それが、また多くの人へ伝える原動力となり、空間づくりを通して、エシカルな社会が広がっていく。自分たちができることから新しい一歩を踏み出そうと、それぞれがワクワクした思いを胸に抱いた時間になったのではないでしょうか。

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